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第2章 光と影の間で 第5話

Auteur: 花宮守
last update Dernière mise à jour: 2025-03-13 06:47:18

「時間を忘れて本を読んでしまいました」

「それだけ元気になってきたということだね。本を読むのは根気がいるから」

 にこにこと言葉を返してくれる従兄は、目の下に疲れが見える。食べる手を止めて、右隣の彼の頬に手を伸ばした。

「晧司さんこそ、お仕事のしすぎでは?」

「構ってくれるかわいい子がいないとね、頑張りすぎてしまう」

 言われてみれば。ここへ来てから、自分の部屋に籠もりきりで夕食まで過ごすのは、今日が初めてだった。

「ごめんなさい。こんなにお世話になっておきながら、少し動けるようになった途端、自分のことばかりで」

 彼の手が私の手に重なった。

「いいんだよ。君はもともと……ふふ」

 思い出し笑い。気になる。私が、おとなしい人間ではないと知ってしまっただけに。

「もともと、何ですか?」

「夢中で何かをしている時が、一番かわいい」

「詳細は秘密?」

「すまない」

「ううん。大丈夫です」

 期待通りの答えはもらえないけど、もう焦らないと決めている。あなたを笑顔にできる私の思い出、必ず取り戻しますから、待っていてください。

 そのためにも、あのアポロンと接触したい。さて、どう切り出したものかしら。

 チャンスは、二人で夕食の後片付けをしている時に訪れた。お皿を洗い終わった彼が、「それで? 今日は大変な宝物を見つけた!という顔で帰ってきたのに、まだ教えてくれないのかな?」と尋ねてきた。聞いてうるさがられるのもいけないから我慢していたけど、気になってもう我慢の限界だよ、と顔に書いてある。

 私は布巾を広げて干し、エプロンを外した。まどろっこしい言い方はやめよう。

「明日から……一人の時でも、長い散歩をしてもいいですか? 私の中の、宝箱の鍵が開くかもしれないの」

 彼の目の届く範囲を外れて、一人で歩きたいという意味だ。

 驚いて、問い質すか。悲しそうに微笑むか。抱きしめて、思いとどまらせるか。彼の反応はどれでもなかった。私の両手を取り、「よかった」と言った。

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